さよならあの夏

甲子園をセーラー服を着て応援したかったよね。

青い魚

 私はサカナクションを好んでよく聴いていて、地元にライブに来れば必ず行くし、一度関東まで出向いてライブに行ったこともあるくらいはサカナクションが好きだ。

 中学生のころ、ラジオっ子だった私は夜10時から必ずスクールオブロックジェットストリーム、まだ毎日放送されていたころはラジアンを聞いて寝ていた。10時台のスクールオブロックはちょうど学校の宿題をする時間帯で、その日は漢字帳の書き取りをしていた時だった。つけていたラジオから聴こえてきた音楽の、ある所で思わず手を止めた。それは今まで聴き流すような穏やかな音楽だったのに、サビの直後の転調(であっているのだろうか)が独特で、今まで聴いたことのない音楽に変化した。

 それが「目が明く藍色」だった。光は単純な光~のあたりで、中学生の私は思わず漢字帳に歌詞を書き留めた。そのあとすぐ検索して誰が歌ったのか調べたのかはしっかりとは覚えていない。ただ、その時の私はこの曲がいい、と思って書き留めたわけではないのはしっかり覚えている。初めて聴くような音楽にどこか奇妙さを感じていて、合唱部分からは少し不気味さを感じていて、目まぐるしく変わる曲に私は初めての感覚を覚えた。好きとか嫌いとかじゃなくって、頭に残るフレーズと曲調、尾を引くように気になる曲でもう一度聴いてみたい、癖になる曲だ、そう思っていた。そのあとにテレビで「アルクアラウンド」のMVが話題になっていてかっこいい曲だな、と思った記憶があるが、どちらを先に聴いたのか前後関係ははっきり覚えていない。ただ、私の中でかなり強烈な出会いだったのがサカナクションだった。

 そのあと、高校生になって邦ロックを好んでいた友達と音楽の話題になって、そこからそういえば私は結構サカナクションの曲が好き、という話になって持ち始めたばかりのスマホyoutubeの公式チャンネルからサカナクションの曲を数曲聴いた。何曲か聴いて私がとくに気に入ったのは「ルーキー」だった。イントロから沈んでいくような、深海にいるようなこの曲に引き込まれた。MVも何度も見直した。ただその時は数曲が好きなだけで、アルバムを借りてみるといったことはしなかった。その時の私はPerfumeに一番はまっていた時期だったので他のものを追いかけるまではしなかったのだと思う。

 そこからほかの友人を通じて4年前にサカナクションのアルバムを初めて借りて、聴くことになる。ずっと気になる存在だったサカナクションを、ようやく聴くことができた。一気に借りたアルバムはすぐに聴きこんで、音楽を聴くといえばサカナクション、となるほどまでに至った。どの曲も大好きでシャッフルにして流しても飛ばすことがほとんどない。それくらいどの曲も大好きだ。最近は美容師さんからサカナクションの曲って全部A盤でもいいくらいですよね、という話をされたけれどまさにそう、私の言いたいことそれ、とうなずいた。どの曲も魅力的で、かっこいいのだ。

話を戻すとそこからはライブにも行ったり、音楽番組に出ることがあればチェックしたり、そこそこ追っかけるようになっていた。特にライブは今まで行ったことのあるどのアーティストよりも楽しかった。ただ音楽を聴きにいくのではなく、大好きな音楽を聴きながら踊り、リズムに乗るようなライブは今まで経験がなかったのだ。遠方の友達からの誘いもあり、ひとりで東京まで出向いてライブに行ったのも初めての経験だった。

 私の大学生活はサカナクションを聴いて過ごしたようなものだ。私はすぐ記憶と曲を連動させてしまって、苦しい時期に聴いていた曲を今聴くとあの時の苦しさを思い出してしまうという弊害がある。サカナクションの曲は苦しい時期を無意識に避けていたのか、どの曲を聴いても苦しい気持ちが呼び起こされない。強いて言うなら、進路に悩んだ時期に聴いていた「NIGHT FISHING」の曲を聴くと、予備校の通学路を歩いたことを思い出すくらいだろうか。少しもやっとするのはそれくらいで、他はある曲を聴けばあの時の夏のアルバイトを、ある曲を聴けばあの時の旅行を、あの時の帰り道を思い出す、というように大学生活の思い出と結びつけられている。中でも私は「ユリイカ」を聴くと浜松町から羽田空港へと向かうゆりかもめの車内を思い出すのだ。東京に初めて一人で行って、ライブに参加して、そして一人で帰る帰り道。ちょうど大学3年の秋、自分はどこで働くのだろうか、こんな都会で働いたりするのだろうか、東京は人が多くて、ビルが大きくて、電車もきれいだな、今から帰る私の地元は田舎でちっぽけに感じるな、と思いながらユリイカを聴き、ゆりかもめに揺られながら帰った。その時に聴くユリイカがあまりにもぴったりで、今でも私の中では東京から帰るときのテーマソングになっている。

 今年は残念ながら私の地元にライブで訪れることはなかった。隣県ではあるが、どうせ遠征するなら都会がいいという意地から今年はライブに行けそうもない。今年から新社会人になる自分にはどのライブに行けるか定かでもないし。またどこかでライブに行って、踊って楽しめたらいいな。そして新しいアルバムが楽しみだな、と思いながらこれからの社会人生活もサカナクションを聴いて過ごしていきたい。稼いだお金で遠征でもなんでもやってやる。社会人になっても継続できる生きがいなのだから。